テーマ 「難聴者の世界を広げる耳マ講師 荒川 清美氏
社団法人 全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 理事 要約筆記部長
特定非営利活動法人 名古屋難聴者・中途失聴者支援協会 理事
要約筆記等研究連絡会「まごのて」代表 ーク・要約筆記」
皆さんこんにちは。
社団法人 全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 理事の荒川です、どうぞよろしくお願い致します。
先ず、スライドを見ていただいて、その後で耳マークとは何か?なぜ耳マークが必要なのかについてお話をしたいと思います。
(スライドを見る)
耳マークの運動がはじめって30年以上経ちました。徳島でもこの運動が実を結んできましたね。
それでは耳マークの現状と課題について考えて行きましょう。
耳マークは名古屋から生まれました。難聴者は一人では行動することが難しく、家族や友人と一緒でなければ行動する事ができない場合が多いのです。そこで、難聴者が一人で病院や公共施設等へ出かけるにはどうすれば良いのかを考えた時、耳マークが生まれました。
この耳マークを見せる事によって、相手に難聴である事を理解してもらい、対応してもらう事ができるようになるのでは?と考えたのが耳マークです。耳マークは、耳の形で音が入る様子を表しています。プロが考えたデザインなので、とても好評ですね。
聞こえない人と言っても、色々な人がいます。例えば高い音や女性の声が聞き取り難い人、低い男性の声なら分かる人などまちまちです。また、聞こえないけど話ができる人、私は生まれつき耳が聞こえませんが、訓練によって話ができるようになった人など様々です。
話ができるために、本当は聞こえるのでは?と難聴者は誤解を受けやすいのです。聞こえないと言う事がどういうことなのかを、色々な所で説明をしてきたが、まだまだ十分ではありません。
皆さんもいつも悲しい想いをしながら、深い悲しみを持っていると思います。
テレビやメディアの関係で、聞こえない人のコミュニケーション手段は、手話しかないと思っている人も結構います。
社会の皆さんと、もっともっとコミュニケーションをとりたいと思っているのに、手話が出来ない難聴者には、近寄ってきてくれない現実があります。
しかし難聴者の皆さんは、ゆっくりはっきり喋る、口の動きで言葉を読み取る、補聴器で聞き取るなど色々なコミュニケーション手段を使っているので、それを認め合う事が大切なのです。
ヘレンケラーの有名な言葉があります。「見えない人は物を遠ざけるけれど、聞こえない人は人を遠ざける」と言う言葉です。一人で生活をするなら、難聴者は不自由はありませんが、社会の中で生活をすると言うことは、人と人とのふれあいなので、聞こえない人には、色々な不自由があります。
難聴者は病院等で、待たされる事が良くあります。呼ばれても聞こえないからです。看護婦さんが出てくるたびに、顔をじっと見て、自分が呼ばれていないか、必死で理解しようとします。体調が悪いので病院に行っているのに、そこで余計に疲れてしまいます。その結果、もう病院へは行きたくないと思ってしまいます。
その後、診察券に耳マークが付き、銀行の通帳に耳マークが付くようになって、やっと安心して出かける事ができるようになりました。
聴覚障害者は話ができないと言うイメージがありますが、難聴者は話ができる場合が少なくありません。そして、コミュニケーションを取りたい為に、一生懸命相手と話をします。しかし聞こえていないのです、この事を理解してもらう必要があります。
また、耳マークには、聞こえないので、書いて情報を伝えてくださいという意味もあります。
全難聴は、阪神大震災のときに補聴器を無くした人達に、補聴器を提供する活動をしました。
石川県の震災には、全難聴の本部の人達も駆けつけました。その時、被災現場で聞こえないために、救援物資を受け取れないでいる難聴者がたくさんいることを目の当たりにしました。
この時に難聴者を救ってくれるのが耳マークです。しかしまだまだ公共機関にさえ普及されていない現実がありますので、普及活動が大切と思います。
耳マークの普及は以前と比べれば非常に広がっていると思います、しかしその為に、上司に言われたから内容も知らずに置いている所も少なくありません。
以前、郵便局に耳マークの設置をお願いに行った時、「置く場所が無い・聴覚障害者が来た事が無い」と言って断られました。
「あなただっていつかは聞こえなくなるのよ」と怒ったこともありました。
今は、ぎすぎすしている社会だけど、お互いが優しい気持ちを持って、障害者ももっともっと社会に出て、聞こえない事は不自由だけど、皆さんからの配慮を頂いて楽しく生活をしていますとアッピールする事が大切です。
耳マークを普及する時に、難聴者の不自由さを社会にアピールする事も大切ですが、難聴者への配慮に感謝する事も忘れてはいけません。
耳マークの著作権は全難聴にあります。これは乱用や不本意な使用を避けるためです。
皆さん、耳マークをおおいに普及して欲しいと思いますが、その時には全難聴へ申請をしてください。
耳マークは全難聴の団体のマークでも、難聴者のマークでもありません。耳マークは社会と難聴者の間において配慮を求めるマークです。
もしも耳マークが難聴者のマークであれば、病院や銀行、公共機関に置く必要はありません。
難聴者は聞こえないことを知られるのが嫌と感じている人が多く、認めたくないと感じています。 また、皆から哀れな眼で見られたくないなど、聞こえない事に負い目を持っている人がたくさんいます。
聞こえないから、周りの人に迷惑をかけていないか?と、自分の心に負い目を感じているのです。
色々な所へ出掛けて行っても、みんなが何を言っているのか分からない、でも話がしたい、聞きたい。そこで、周りの人に「今なんと言ったの?」と聞けばその人が話しの輪に入れなくてムッとされる。これは親子でも同じです。テレビを見ている時に「今何を言ったの?」と聞いても「待ってて、後で説明するからね」と言われる。終わった後では、忘れてしまい意味がありません。
一番身近な家族にさえ配慮されていない場合があり、どこにいても苦しい思いをしています。
難聴者の中には、自分がここにいると迷惑をかけてしまうのかなぁ、と思っている人もいますが、理解者は必ずいます。難聴者の安心感のためにも、耳マークの普及は必要です。
耳マークができて30年以上経ちます。この間耳マークの普及活動は地味ではありましたが、続いてきました。難聴者のみなさんは、この耳マークが必要であるという事は認識しています。時には耳マーク普及活動を忘れて、他の活動に目を向ける事もありますが、難聴者にとって耳マークは必要なものなので、今でも普及活動は生き続けています。耳マークは難聴者の宝物なのです。
5月から始まる、裁判員制度の裁判員が耳マークを知らない、おまけに要約筆記すら知らない、分かっているのは、聞こえないと言えば「手話」だけなのです。だからこそ難聴者の皆さん、頑張って耳マークを広めましょう!
裁判員制度における要約筆記にも問題があります。要約筆記は、当然話の内容を要約して筆記しますが、裁判の時は要約してはいけません。話したままを書かなければなりません。要約すれば、筆記者の考えが入ってしまうからです。この事については、全要研と一緒に最高裁判所と交渉を続けています。
皆さんは、今後耳マークをどのような活動に続けて行けば良いと考えていますか?
色々な所に置いてもらう?・・・、そうではなくて、耳マークを置かなくても良い社会になってほしいと思っています。
誰に言っても快く筆談で応じてもらえる、そんな社会作りです。
耳マークカードを見せれば、「あっ、それならこちらへ」と言われるのは嫌です。耳マークがあるところへ、わざわざ行かなくても良い社会を作りたいと思っています。
最近は、耳マークが色々な所へ多く置かれて来ましたので、これからは難聴者の皆さんが色々なお店に出掛けていって、直接コミュニケーションをとって欲しいと思います。
そして、どのような筆談の方法が、私たち難聴者に伝わり易いのかを教えてあげて欲しいのです。
本やインターネットで仕入れた情報だけで、難聴者と対応するときは大きな声で話す、口を大きく開けて話すだけが、効果的なコミュニケーション手段ではないことを、実践を通して教えてあげて欲しいと思います。
筆談が長時間になれば、嫌がられる時もあります。特に話せる難聴者は、相手に筆談を要求して、自分は言葉で応えてしまいます。相手に要求するばかりでは嫌がられても仕方がありません。相手が書いてくれたら、自分も書く。相手が書き終わるのを待って、言葉で応える。事前に質問をメモで用意して、説明をしてもらうなど、相手の事を考えたコミュニケーションの方法は何なのかを、難聴者どうしで話し合って欲しいと思います。 そして、社会の皆さんが快く対応してくれる方法を考えて欲しいのです。
気持ちの良い難聴者が来たら、次も頑張ってコミュニケーションをしようと言う気持ちになってもらえるはずです。
難聴者はコミュニケーションが下手だから、相手に要求ばかりしてしまいがちですが、それでは理解してもらえないと思います。
これからも、次のことをお願いしたいと思っています。
一つ目は、せっかく耳マークが設置されていても、いつしか隅に追いやられて、無くなってしまう場合があります。その様な時には、「このマークは私たちにとって大切なマークで、必要です」と説明をして、正しい所に設置するように言って下さい。
二つ目は、公共の窓口等において、コミュニケーションに配慮をして欲しいと要求してください。その為にも、地元の難聴者と協力をして、どうすれば良いコミュニケーションができるのかを、難聴者と一緒に勉強して欲しい、と申し入れをしてください。申し入れが来た時には、協力するのが地元の難聴者の仕事ですよ。
耳マークが現在のように広がってきたのは、私の力ではありません。もう他界をした先輩方をはじめ、多くの人達の力を合わせた結果です。耳マーク普及啓発活動にご尽力を頂いた全ての人達に感謝をこめて、ありがとうと申し上げて、講演を終了したいと思います。本日は本当にありがとうございました。
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